「三人色若衆」(横溝正史)

人形佐七捕物帳167

怪しい修験者、その正体は?

「三人色若衆」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳十」)
 春陽堂書店

「完本 人形佐七捕物帳十」

大日坊と名乗る坊主とも
修験者ともつかぬ人物が現れ、
怪しげな加持祈祷で
民衆を惑わしていた。
集まる信者の多くは女。
そこに何か
からくりがあると睨んだ佐七は
密かに調べを進める。
その矢先、祈祷に出かけた
大日坊が毒殺され…。

横溝正史人形佐七捕物帳
第百六十七話です。
戦後の昭和30年に発表された
作品であり、
戦前の佐七シリーズよりも分量が
多いのが特徴です(これも雑誌掲載後の
単行本収録時に増量された)。
登場人物が多く、複雑な構成ですが、
例によって佐七が
鮮やかに事件を解決します。

【捕物帳一六七「三人色若衆」】
巳之介
…植木職人。佐七の幼馴染み。男色家。
万菊
…色若衆。巳之介の情人。
姫鶴
…色若衆。巳之介のかつての情人。
 もとの名前は千吉。
友造
…植木屋の親方。
 巳之介の姉・おはまの亭主。
 加賀屋の寮の庭の作業中、
 はしごから落下し、大怪我をする。
大日坊
…加持祈祷で評判の修験者。
銀弥
…大日坊に使われる小姓。
 色若衆と目される。
弥兵衛・お杣
…大日坊の祈祷所の用人夫婦。
岩松
…大日坊の用心棒。
 大型の土佐犬・鬼若の飼育係。
 鬼若が行方不明となったために
 暇を出される。元三段目力士・岩錦。
お艶
…岩松が通う女。別嬪。
お常
…お艶と住む老女。
磯田孫之進
…浪人。盲目の尺八吹き。
 毒入りおはぎを食して死亡。
お君
…孫之進の娘。九つ。
佐々木茂右衛門
…苗字帯刀を許された大地主。
 お彼岸におはぎの施行をした。
 孫之進が食したのはその一つ。
 大日坊の信者。
お蝶
…茂右衛門の娘。十六。
 銀弥に熱を上げている。
万五郎
…茂右衛門の先妻の甥。
 茂右衛門と同居している。
お喜多
…茂右衛門の後添え。
鳥越の茂平次
…十手持ち。海坊主という綽名がある。
重兵衛…町役人。
辰・豆六…佐七の乾分。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。

本作品の味わいどころ①
事件に巻き込まれた三人の「色若衆」

表題にある「色若衆」とは、
江戸時代に見られた
春を売る若衆のことです。
冒頭に登場する巳之介なる植木職人が
まずは男色家であり、この「男色」が
一つの鍵となっているのです。
さすがに昭和30年ですので、
「江戸時代では、男色のことを
衆道とよび、現代におけるほど
不自然視や、罪悪視されては
いなかったらしい」との説明付きです。
その巳之介の情人の万菊・姫鶴、
さらには怪しい修験者の小姓・銀弥が
「色若衆」であり、
この三人が事件に絡んでくるのです。
最後まで読み進めれば、
なぜ「男色」にこだわったかが
分かる仕掛けです。
絶妙なトリックの
下敷きとなっているのですが、
それが第一の味わいどころでしょう。

本作品の味わいどころ②
怪しい修験者、その正体は?

怪しい修験者・大日坊が
何か犯罪を企んでいるのかと思って
読み進めると、彼は中毒死し、
中盤ではや退場となります。
犯罪者と目された人物が殺害され、
読み手はうろたえざるを得ないのです。

ところがさすがは佐七、
大日坊の死が伝えられると
いち早く祈祷所を家宅捜索。
それまでの大日坊の悪事を暴くのです。
その悪事の全貌は
読んでからのお楽しみとしておいて、
佐七が祈祷所から押収したのは
「秘帖女人奉加帳」。
これだけでも雰囲気は
分かるかと思います。
この怪しい修験者の正体を暴き、
悪を裁こうとする佐七の活躍が
第二の味わいどころです。

本作品の味わいどころ③
複雑に絡んだ事件の真相は?

横溝が少し複雑にしすぎた感のある
本作品、中心となる事件は、
「佐々木家における毒殺事件」
(被害者・大日坊・お喜多)、
その後に発見される
「首なし死体遺棄事件」
(被害者は銀弥とみられる)の
二つであり、加えてそれ以前に起きた
「磯田孫之進毒殺事件」、
そして佐七が発見した
「鬼若殺害事件」(鬼若は土佐犬であり
犯罪には該当しないが)の計四つです。
首なし死体は横溝得意の(というよりも
ミステリでは常道の)身元隠しです。
もっとも怪しい人物の毒殺死は
金田一シリーズ「百日紅の下にて」
(昭和26年発表)の応用であり、
多種多様な作品の設定やトリックが
総動員されています。
その複雑怪奇な事件の謎解きこそ、
本作品の第三の味わいどころなのです。

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それぞれの人物の身の振り方を
上手に処理し、
丸く収めているのはさすが横溝です。
やはり横溝作品は
金田一ものだけではありません。
人形佐七をぜひご賞味ください。

(2023.5.26)

Sergio SerjãoによるPixabayからの画像
おどろおどろしい世界への入り口

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